その昔、中国・四川省成都の宿で日本人に聞きました。
「皆既日食って、こんなに素晴らしいんだよ!」と。
「カッパドキアの岩の上から見た皆既日食が、あまりに素晴らしかった」という彼の熱い話を聞いていたら、「いつか私も必ず自分の目で皆既日食を見てみたい!」という想いになりました。
それから数年後、2009年7月22日に日本の九州・奄美地方などで皆既日食が見られる、という情報を知り、その日から私はどこでその一瞬に立ち会おうとドキドキワクワクの計画が始まりました。
沢山の日本人たちとワイワイしながら見るよりも、自然たっぷりでみんながあまり行かないような場所でしっとりと見たいな。鹿児島・奄美地方も上海も違うなぁ、じゃ何処にしようかといろいろと調べ、出した結論が「中国・宏村」。
私は中国行きを決めました。
グーグルマップで皆既日食のルートを調べると、偶然にも宏村のほぼ中心を通ると知り、しかもこの村は以前から行きたかった場所だったので、ここを目指すことにしました。
宏村は、上海から寝台列車で約15時間の黄山駅で下車し、そこからバスを乗り継いで向かいます。ここは世界遺産でも有名な黄山の麓、明清代の歴史建築が数多く残る村落で、世界遺産に登録されています。
電車とバスを乗り継ぎ、私はようやく宏村に入りました。
この街には日本人は一人もいませんでした。入り組んだ街の細い路地を抜けると、街の中心部の三日月の形をした池に出ます。ここに来るとカメラを空に向けた中国人がたくさんいました。その時間は刻一刻と近づいているんだなと、こんな田舎町で徐々にワクワクし始めます。
当日の天気は晴れ、気温は恐らく35度ぐらいと暑い日でしたが、すでに少しずつ太陽は月に隠れ始めています。池の周辺には時間を追うごとに人が徐々に集まり始めます。
池に落ちないようにしながら人をかき分け、私も場所取りをしました。
その間も太陽は徐々に欠けていきます。そして、ほぼ太陽が月に隠れた頃に、あたりが急に暗くなりだしました。周りにいた人たちの歓声が響きます。
太陽が、月に完全に隠れました。
あたりは完全に暗く、気温も数秒の間に10度ぐらい下がったように感じます。見上げると、月の裏から輝く太陽のオレンジ色に近い金色の光が、とても美しく輝いて見えます。
夜だと勘違いした鳥が、鳴きだしました。止まったような時間がおよそ5分間続きます。
綺麗なダイヤモンドリングが見えたあと、一気に太陽が顔を出し、昼間の日差しが戻りました。
それはとても美しく、神秘的な体験でした。
数年前に皆既日食のことを語ってくれた、友人の熱い気持ちが分かりました。
皆既日食の素晴らしさを教えてくれた、友人に改めて感謝!
皆さまも、金環日食や部分日食とは全く規模が違う皆既日食に、ぜひ立ち会ってみてください。次回は2035年9月2日に日本の本州で見られるとのことです。まだまだずいぶんと先ですが、当日晴れることを祈りましょう。